がんの基礎知識1

「がん」とは?

「がん」はがん細胞のかたまりです。

がん細胞とは無秩序・無制限に増え、周囲への浸潤や転移をしうる細胞を指します。

正常な細胞は、必要なときだけ増え、必要がなければ増えることをやめたり、場合によって自分で自分を消滅させるようなプログラムすら備わっています。

しかし、がん細胞ではこれらの正常な細胞に備わっているはずのブレーキが壊れて、無制限に増えるようになってしまっているのです。

このブレーキが壊れる一番大きな原因が遺伝子の異常になります。

「遺伝子の異常」とは?

遺伝子とは細胞の中にある身体の設計図のようなものです。

細胞の中にはDNAという物質が数珠状に並んだ糸状のものが、二重らせん構造をとりながら折りたたまれています。このDNA配列の一部に身体の元であるタンパク質の設計図が書き込まれて、その領域を遺伝子と呼びます。

しかしながら、DNAは毎日多くの傷ができます。二重らせんの片方のみの切断(一重鎖切断)、もしくはDNA配列の1つの損傷などは1日に1万回ほど起こり、二重らせんの両方の切断(二重鎖切断)は1日に10-50回ほど起こっていると考えられています。1,2 このような傷はすぐに修復され事なきを得るのですが、まれに修復ができずに間違った遺伝子配列になってしまうことがあります。これを突然変異と呼ばれます。この突然変異が遺伝子の異常の最も多いもので、がんの一番大きな原因と考えられています。

<参考文献>
1. Hoeijmakers JHJ 2009. NEJM 361: 1475–1485
2. White RR 2016. Mol Cell 63(5): 729-738

がんは子供に遺伝する?
がん細胞が生じる最も大きな原因の1つが遺伝子に異常が生じることだと説明しました。こう聞くと「がんは子供に遺伝するのか?」という疑問を持たれる人もいると思います。

確かに、遺伝するがんが存在することは知られています。アメリカの女優のアンジェリーナ・ジョリーがBRCA1という遺伝子に異常があり、乳がんや卵巣がんになる前に、乳房や卵巣を切除したことがニュースになりました。BRCA1は傷ついたDNAを修復する遺伝子で、このBRCA1に異常があると、遺伝子の修復がうまく行かずにがんになりやすくなってしまい、乳がんや卵巣癌のリスクが高まります。しかしながら、乳がんの場合であっても、このような子供に遺伝するタイプのがんは全乳がん患者の1割以下と言われており、9割以上の方は子供に遺伝しないタイプのがんということになります。

遺伝子以外のがんの原因

がんになる原因として、がんに関連する遺伝子異常を親から引き継ぐ遺伝要因以外に環境要因があると言われています。環境要因とは、生活習慣、ウイルス感染、発がん物質やホルモン剤(経口避妊薬、等)などを指します。最も有名なのは喫煙や飲酒ですが、それ以外にも肉食や肥満なども挙げられます。結局の所、がんも生活習慣病としての側面もあるということなので、バランスのよい食事に節度ある飲酒、さらには適切な運動が大事ということなのでしょう。ちなみに喫煙はストレス軽減効果すら認められないため、百害あって一利なしかと思います。

牛乳や乳製品は乳がんのリスクを増やす?
一時期、牛乳や乳製品が乳がんのリスクを増やすという話がでたことがあり、多くの乳がんの患者さんから「牛乳や乳製品を摂取しない方が良いのでしょうか?」と聞かれたことがあります。現在では、乳製品と乳がんの発症リスクに明かな因果関係は証明されていません。

がんの予防

がんを予防するには、先ほど述べた環境要因を無理のない範囲で減らすのが基本です。

よくテレビなどで「○○○○ががんを予防する!」「○○○○が抗酸化作用を持つ!」「医学博士が勧める○○○○」などのフレーズが飛び交いますが、ほとんどは根拠(専門的にはエビデンスと言います)のない話なので、話半分に聞いて下さい。

基本は先ほども述べたように、バランスのよい食事に節度ある飲酒、および適切な運動でしょう。

子宮頸がん予防ワクチン
なお、HPVというウイルス感染によって起こる子宮頸癌を予防する子宮頸がん予防ワクチンですが、日本では非常に大きな混乱が起こり、現在でも接種率が非常に低い状況が続いています。事の起こりは、2013年に定期接種化された直後に副反応について報道が巻き起こり、反対運動が起こりました。結果、接種推奨が一時的に中止され、希望者は無料で接種できるものの予診票などは送付されない対応が取られています。ワクチンなので低い確率で副反応はありますが、重篤な副反応は10万接種あたり2人程度であり、高い子宮頸癌予防を考えると、接種が望ましいのではないかと考えます。

がん検診

がんは早く発見すれば高い確率で治すことができます。そのために最も大事なのが定期的な検診です。

国が定めたがん検診(がん予防重点教育及びがん検診実施のための指針)があります。しかし、政策の一環ですので費用対効果という観点から、患者数の多いがんに対して簡単かつ安価に行える検診に過ぎません。さらに税金を用いて行う以上、長期の観察研究によって有効性が証明されている健診であることも必要で、PET/CTなどの最新の検査は含まれません。そのため、国が定めたがん検診は最低限の検査しか含まれていないと考えて下さい。なので、余裕がある方は人間ドックなどの精密な検診をお勧めします。

胸部レントゲンで見落とされた!?
治療中の肺癌の患者さんから「健診の胸部レントゲンでは異常なしだったのに。これって見落としですか?」と聞かれることがあります。ケースバイケースにはなりますが、当時のレントゲン写真を振り返って見直すと、腫瘍っぽいのが微妙に写っていることもあります。通常、見落としとは健診医に過失がある場合を指しますが、ほとんどの場合は見落としとは言えないケースが多いと思います。もちろん患者さんにとってすれば納得いかないかもしれませんが、レントゲン検査というのは安価で簡便ですが、肺癌などの病変を指摘できる確率は7割程度しかないということを認識しなければなりません。(心臓の裏側は隠れて見えませんし、肋骨や肺動静脈などと重なると見えにくくなります。)つまり肺癌があっても気付かれない確率が3割程度あり、そのほとんどで過失は認められません。ただ、レントゲン検査は不完全とは言え、7割の異常は拾える上に安価で副作用もないので、今でも行われています。この指摘率(専門的には「感度」と言います)の高い検査をしたければCT検査を人間ドックなどで受けて下さい。