がんの基礎知識2

始めに

前回は、がんが発生するまでの話を書きました。今回は、がんがどのように発生し進展していくのかについて書きたいと思います。

少し専門的で難しい内容ですが、出来るだけ分かりやすく説明していきます。

がんの発生

臓器によってがんの発生形式は異なります。今回は比較的分かりやすい膵癌を例に説明したいと思います。1

膵癌の場合、消化液である膵液が通る管、さらに丁寧に言えば、その管の内側面の細胞からがんは発生します。
それでは、膵管にがん細胞が発生して、膵臓内部に浸潤する過程を見ていきます。

  • Stage.1
    初期
    正常細胞のKRASという遺伝子に偶然に傷がつきます。KRASは細胞の増殖に関連する遺伝子で、この遺伝子に傷が付くことで、その細胞がジワジワと増え始めます。(専門的にはDriver mutationといいます)しかし、この段階では増殖のブレーキ機能はまだ正常なので、爆発的な増殖はしません。イメージで言うと、車のアクセルを踏みながら、フットブレーキもハンドブレーキも機能しているために、少しずつしか前に進んでいない状態です。
     

  • Stage.2
    増殖
    増殖の過程でKRAS以外の遺伝子にも傷が付き、増殖スピードが上がっていきます。ここでは主に増殖のブレーキに相当する遺伝子群(CDKN2A,TP53,SMAD4)に傷が付きます。ただ、増殖と共に徐々に傷が付くのか、どこかのタイミングで一気に傷が付くのか、その両方なのかは分かっていません。(下記の図参照)いずれにせよ、最終的には遺伝子の傷の付き方が異なる複数のがん細胞グループが1つのがんの中に生じます。以前はがんは同じ遺伝背景のがん細胞しか存在しないと考えられていましたが、実際にはかなり不均一な集団であることが証明されています。この不均一性はがんの遺伝子診断および治療を複雑にさせている1つの要因でもあります。
     

  • Stage.3
    浸潤
    増殖スピードの増えた細胞は、基底膜と呼ばれる膜を突き破って、臓器(膵臓)の内部に侵入します。そこには、コラーゲンのような細胞の足場になるような物質(基質と呼びます)が存在したり、免疫細胞や間質細胞なども存在します。がん細胞はこれらから刺激を受けることで、さらに悪性化を来たします。そのうち、一部の細胞が、リンパや血液の流れに乗ってリンパ節転移や遠隔転移をきたすことになります。
     

少し難しい内容だったと思います。正常細胞の遺伝子に複数の傷がつくことで、がん細胞が生まれ、浸潤した先で周囲からの影響によって、さらに悪性化が進むということが分かってもらえれば十分です。

  • がんは複数の遺伝子に傷が付いている
  • 初期には少ない遺伝子の傷も、増殖と共に増加し、同時に悪性度も増加する
  • つまり、早期発見が非常に大事

<参考文献>
1. Makohon-Moore A, Iacobuzio-Donahue CA 2016 Nat Rev Cancer 16(9): 553-565

がんの進展

身体のどこかで発生したがん細胞は、その発生した場所で増殖を始めます。

これを原発巣と呼びます。

原発巣が大きくなるにつれ、周囲のリンパ管や血管を巻き込むようになります。リンパ管にはリンパ液が、血管は血液が流れており、がんが大きくなり、これらを巻き込むと、がん細胞がこの流れに乗って遠くに飛んで行けるようになってしまいます。がん細胞がリンパ管に入れば、その途中にあるリンパ節でせき止められ、リンパ節転移が出来てしまいますし、血管に入れば流れ着いた先の臓器で遠隔転移ができてしまいます。

原発巣からどのように多臓器に遠隔転移するのかをシェーマにしましたので見ていきましょう。

  1. 原発巣のがん細胞が血管内に侵入
  2. がん細胞が血流に乗って移動
  3. 血管壁に接着
  4. 血管内から転移先の臓器に侵入
  5. 増殖を開始(CTやPETなどの画像検査で発見できないサイズ、”micro metastasis”(小さな転移)と呼びます)
  6. さらに増殖、大きな遠隔転移巣を形成 (画像検査で発見できるサイズ)

このように、がん細胞が血流に乗って遠くの臓器に転移するには、多くの段階を経る必要があります。それぞれに段階においてすべてのがん細胞が生き残るわけではないですし、それぞれの段階で必要とされる能力は異なります。そのため、これらの段階すべてを経て遠隔転移巣を形成したがん細胞は「選りすぐりのワル」である可能性が高く、原発巣とは異なった性質を持っていることも多く、治療が難しい1つの要因になっています。