がん治療の基本(手術・放射線治療・抗がん剤治療)

始めに

がん治療において古典的には「手術」「放射線治療」「薬物療法(抗がん剤)」三大治療と言われていました。

近年では、薬物療法に分子標的治療薬と呼ばれる新しいタイプの薬も登場し、特定のがんにはよく効くことが分かってきました。

さらに、2018年のノーベル賞受賞でも話題になりましたが、本庶佑(ほんじょたすく)先生(PD-1の発見)およびジェームズ・アリソン先生(CTLA-4の発見)を契機に、免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤)が登場し、四番目の治療法と期待されています。

今回はこの辺りを分かりやすく整理してお伝えしたいと思っています。

三大治療

手術

手術はイメージ通り、メスなどを用いて外科的に腫瘍を切除する治療法です。

基本的には全身麻酔で眠っている間に腫瘍を切除します。

腫瘍は周囲ににじみ出るように広がることも多いので、肉眼的に見えている腫瘍から数センチののりしろをつけて切除します。

またリンパ節転移がある、もしくは転移のリスクが高い場合には、腫瘍周囲のリンパ節も切除します。

昔は開胸や開腹といって、胸や腹をガバッと大きく開けて手術することが多かったのですが、最近では腹腔鏡や胸腔鏡と言って、小さな穴を数カ所開け、そこにカメラや鉗子などを差し込み手術をすることが多くなってきました。さらに、ダヴィンチという手術支援ロボットを用いた手術まで登場し、さらに進化を遂げつつあります。これらの最先端デバイスによって、治療成績の改善までは達成できていないものの、入院日数の短縮、傷が残りにくいなどのメリットは既に証明されています。

また、腫瘍を摘出したあとに、他の部位の組織(皮膚、筋肉、脂肪など)や人工物を用いて、その臓器を形成外科的に作ることがあります。これを再建手術といいます。

例えば、乳がんで乳房を切除した後に、背中(広背筋皮弁)やお腹(腹直筋皮弁)の組織、もしくは人工乳房(インプラント)などで乳房を作ったりします。舌がんで舌を半分切除したあとに、お腹(腹直筋皮弁)や太もも(前外大腿皮弁)などの組織を移植したりします。

このような形成外科による再建技術の進歩により、審美性や機能性をある程度戻すことが可能になりました。

放射線治療

放射線治療は、腫瘍に放射線(X線やガンマ線)を照射することでがん細胞をやっつけます。

20年以上前はコバルト60とよばれる放射線同位体からの放出される低エネルギーのガンマ線を用いていましたが、近年ではほとんどの施設でリニアックと呼ばれる高エネルギーX線が照射可能な装置を用いて、放射線治療を行います。

コバルトの時代は放射線のエネルギーが低く、皮膚表面ばかりに放射線が当たることで放射線性皮膚炎という副作用が強くでる上に、身体の奥まで届きにくかったのですが、現在は高エネルギーX線を用いて多方向から照射するので以前よりは、皮膚炎は減少され、身体の奥までしっかり照射可能になりました。

さらに、均一なビームをどんと当てることしか出来なかった時代から、濃淡をつけたビームを360度すべての方向から打ち込むことで、当てるべき所にしっかりと放射線を当てて、避けるべき正常組織の放射線線量を下げることが可能になりました。(強度変調放射線治療(IMRT)といいます。)それにより照射する放射線の線量を上げれて治療成績が向上したり、副作用を低減することが可能になりました。

また近年では照射精度が向上したお陰で、腫瘍にピンポイントに多くの放射線を照射する定位照射と呼ばれる照射方法も登場し、比較的小さな肺癌や肝臓がんでは非常に良い治療成績を出しています。

さて、実際の放射線治療の流れを示しておきます。

  • step 1
    放射線治療医の診察
    すべてはここから始まります。放射線治療医の診察を受け、放射線治療の説明を聞きます。放射線治療医は、ここで放射線治療の線量や回数、当てる場所などを考えます。
  • step 2
    放射線治療用のCT撮影
    まずは放射線治療計画を立てる為のCTを撮影します。このときに、位置決めのための線を身体に描かせてもらったり、固定具とよばれる装具を作成します。ここで撮影したCT画像を用いて、どのぐらいの放射線をどのぐらいの強さで照射すれば、目的の線量を腫瘍にきっちり照射できるかを専用のコンピューターを用いて計算します。
  • step 3
    放射線治療開始
    CT撮影後、数日後より放射線治療が始まります。シンプルなプランの場合、翌日から照射開始という施設もありますが、通常は2-3日後が多いかと思います。IMRTという特殊な治療計画の場合1-2週間ほど検証作業が必要になります。
  • step 3
    放射線治療中
     腫瘍や患者さんの状況によって回数は異なりますが、基本的には毎日連続して放射線を腫瘍やその周囲のリンパ節領域に照射します。 放射線は身体で感じることは出来ないので、患者さんはベッドの上でじっとするだけです。痛くも痒くもありません。必要な時間は、部屋に入ってから出るまでは着替えたり、位置を合わせたりも必要なので20-30分ほど必要ですが、X線の照射時間そのものは多くの場合1-2分です。
  • step 4
    放射線治療終了
    放射線治療が終了した後は、経過観察のための定期的に放射線治療に通院が必要です。

抗がん剤(化学療法)

抗がん剤は、点滴や経口(飲み薬)によって全身に投与されます。

何日投与して何日休薬するのかという投与スケジュールは、がんの種類や抗がん剤の種類によって大きく異なります。

例えば、食道がんでよく用いられるFP療法であれば、5-FUとシスプラチンという2種類の薬を投与するのですが、シスプラチンの点滴は2時間ほどで終わるのに対して、5-FUは4-5日間の間、寝ている間もずっと点滴で入れ続けます。またシスプラチンは腎臓への副作用があり、腎臓を洗い流す目的で大量の生理食塩水を抗がん剤の直前に点滴したり、吐き気予防に吐き気止めを入れたりします。この複雑な投与スケジュールは、各病院で手順(レジメン)がきっちりと定められ、この一連の抗がん剤投与を定期的に行っていきます。

ちなみに、5-FUもシスプラチンも30年以上に渡って使われ、比較的古いお薬ですが、今でも現役で使われています。一方、抗がん剤治療を支える補助療法として、効果の高い吐き気止めが複数認可され、吐き気ついては昔に比べて劇的に改善されました。

昔ながらの抗がん剤の多くが現役で使われている一方、分子標的薬という新しいタイプのお薬も登場しました。

昔ながらの抗がん剤はがん細胞だけでなく正常細胞も同時に攻撃してしまう(細胞傷害性抗がん剤)のに対して、分子標的薬はがん細胞だけに存在するターゲット分子を攻撃するように作られています。

例えば、ハーセプチンというお薬は乳がんの治療には欠かせないお薬ですが、このお薬はHER2という細胞増殖に関わるタンパク質をターゲットにしています。乳がんにはいくつかタイプがあるのですが、一部のタイプでは、HER2をコードする遺伝子(ERBB2)が増幅し、がん細胞の表面に多くのHER2が発現しています。HER2が多く発現しているタイプのがんに、ハーセプチンを投与すると、がん細胞の増殖シグナルが止まることで抗腫瘍効果をもたらします。

分子標的薬は正常細胞にはあまり効果を及ぼさないために、昔ながらの抗がん剤に比べて副作用が少ないことが多いです。(あくまで適正に使用した場合で、例外の1つの例がイレッサ事件です。)また、分子標的薬のターゲットががん細胞にとって非常に重要な遺伝子であった場合には劇的に効くことが時としてあります。ただ、事前に分子標的薬がどの程度効くかを事前に予想することが出来ないため、この辺りは今後の課題かと思います。

免疫療法

上記の三大治療に加えて、近年新しく加わったのが免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる免疫療法です。

そもそも免疫とは本来、体内にある異物を除去するために生来備わっているシステムです。

この免疫のシステムにおいて、細胞傷害性T細胞(=CD8陽性T細胞)と呼ばれる細胞が異物を認識して攻撃するのですが、がん細胞は”自分は味方ですよ!攻撃しないで!!”という看板を自分の表面に出して、この攻撃から逃れようとします。この看板がPD-L1とよばれるもので、この看板を認識するのが細胞傷害性T細胞(=CD8陽性T細胞)に発現しているPD-1になります。京都大学の本庶佑(ほんじょたすく)先生は、このPD-1を発見し、このPD-1とPD-L1の結合をブロックすることで、がん細胞が生来備わっている免疫によってちゃんと除去されるようにしてあげる薬を開発したことで、2018年にノーベル賞を受賞しました。

本庶先生が開発に関わった薬は、オプジーボという商品名(一般名:ニボルブマブ)の薬ですが、これ以外にも何種類かの薬が開発され、すでに臨床応用がどんどん進んできています。

怪しい免疫療法にはご注意を!

実は免疫療法の考え方自体は100年以上前からあり、非常に多くの免疫療法が、小さなクリニックなどを中心に自由診療(保険外の医療)として行われています。ただ、残念ながら、上記の免疫チェックポイント阻害剤以外のほとんどの免疫治療には、科学的根拠もなく、効果も非常に限定的なものばかりです。にも関わらず、これらの怪しい治療を非常に高額な費用で行うビジネスが横行し、さらに週刊誌などで大々的に宣伝する始末です。費用については本人が納得して出すのであれば構わないのですが、調子の悪いテレビを叩いて治すレベルの治療のせいで、十分に効果のある標準治療を拒否されると医者としては非常に辛い思いをします。

治療の基本戦略

各学会のホームページに治療アルゴリズムがフローチャートで記載されていますが、非常に複雑で、一般の方が理解するのは難しいのではないかと思います。そこで、ここでは基本の治療戦略をざっくりまとめてみました。当然ながら、あくまで基本的な考え方を書いているだけなので、実際の治療選択にはそのがん特有の事情も踏まえて考えなければなりません。

    1. 1ヶ所のみ、転移リスクなし → 局所のみ治療(手術 or 放射線治療単独)
    2. 1ヶ所のみ、転移リスクあり → 局所+リンパ節の切除 or 放射線化学療法
    3. 周囲リンパ節まで転移 →  局所+リンパ節の切除 or 放射線化学療法
    4. 遠隔臓器まで転移 → 化学療法+必要に応じて放射線治療の追加

基本戦略を理解するためのポイント

局所に対する治療?全身に対する治療?

がんに対する治療法を考える上で重要なのは、その治療が局所に対する治療なのか全身に対する治療なのかという点です。

そもそも局所とは、通常、がんが発生した最初の部位(原発巣)を指しますが、ここでは、その周囲の限られたリンパ領域(所属リンパ節)も含めています。

三大治療のうち手術と放射線治療は局所に対する治療になります。

手術はこの領域を外科的に除去することで、放射線治療はこの領域に放射線を照射することで、この領域からがん細胞をなくすことを目的とします。逆に言うと、手術や放射線照射は局所以外の領域には効果はありません。(放射線照射によって、領域外のがん細胞が死滅する現象が報告され、アブスコパル効果と呼ばれますが、非常に稀な現象で、狙って引き起こすことは出来ません。)

一方、抗がん剤治療は全身に薬が行き届くため、局所以外の場所にがん細胞があっても効果が及びます。しかし、抗がん剤は「全身に弱く効く」というものなので、原則としては抗がん剤のみで固形がんの完治は望めません。

放射線治療と抗がん剤治療の相乗効果

先ほど抗がん剤治療は全身への治療ということを述べましたが、例外があります。

それは放射線治療と抗がん剤治療の併用になります。

この抗がん剤は放射線を当ててない場所にあるかもしれないがん細胞もやっつけるという役割もありますが、それ以上に大事なのは、抗がん剤は放射線治療の効果を高めることが可能な点です。(相乗効果)

例えば、抗がん剤で最も有名なシスプラチンというお薬は、細胞のDNAを攻撃し(二重鎖間架橋)、細胞の増殖を止めます。この時、多くのがん細胞ではG2/Mチェックポイントと呼ばれる機構が働くのですが、この機構で増殖を止めた細胞は放射線の効果が非常に高いことが知られています。

他にも相乗効果を生むメカニズムは沢山存在しているのですが、ここで覚えて置いて欲しいのは「抗がん剤は放射線治療の効果を高める」ということです。

そのため、腫瘍が非常に小さい場合を除き、放射線治療には抗がん剤を併用することが多く、これを「化学放射線療法」といいます。(英語でChemoradiotherapyというので、医療者は略してCRTとかケモラジなんて言い方をします。)

術前治療

先ほど、放射線治療の効果を上げるために抗がん剤を併用するという説明をしましたが、手術の効果を高める為に行う治療が術前治療になります。

術前治療としては、抗がん剤単独もしくは放射線と抗がん剤との併用(放射線化学療法)が用いられますが、基本的な考え方としては、がんを小さくして手術で取りやすくすること、あわよくば目に見えないような転移を早めに抗がん剤で叩いてやっつけておきたいという狙いがあります。

例えば、ある程度のサイズの直腸癌を手術で切除すると肛門ごと切除しなければならず、お腹に人工肛門を作らざるを得ない場合があります。それを避けるため、手術前に抗がん剤や放射線治療など行い、腫瘍を小さくさせ、肛門の温存が可能になることがあります。

また膵癌は進行すると、上腸間膜動脈や腹腔動脈といった重要血管に浸潤していくことが多いのですが、そうなると手術が不可能になります。完全に浸潤している場合は難しいですが、微妙な浸潤の場合(Borderline resectableなんて言い方をします)は抗がん剤や放射線治療などを行い、血管への浸潤がなくなり手術を可能にするという試みがなされています。

術後治療

手術後に行う放射線治療や抗がん剤治療を指します。

目的としては、局所再発や遠隔転移の予防ですが、手術の結果によっても治療の必要性やターゲットは変わってきます。

例えば、手術で腫瘍を完全に取り切れずがん細胞が残っている場合、腫瘍を取り切れたものの安全なマージンを確保できずに目に見えない小さな腫瘍が残っている可能性が高い場合などは、その場所に放射線を照射する必要があります。

また、切除した腫瘍を顕微鏡で観察したときに、間質の深部への浸潤があり、リンパ節転移のリスクが非常に高い場合は、周囲のリンパ節全体に放射線を照射したり、抗がん剤を使用する必要があります。